原初の音|コトコトと響く、懐かしい音

かつて幼かった私は、
ぬいぐるみとおままごとをすることが好きでした。

ひとりっこで、引っ込み思案な性格だったこともあるかもしれません。

相手がぬいぐるみとだったら、本音で遊べたのです。

とりわけ記憶に残っているのは、
ある音を聴きながら、ごっこ遊びをすることでした。

コトコト…コポコポ…

加湿機能が付いた電気ストーブのスチーム音です。

その音は、冬の寒い日に、
寝室の中でやさしく静かに響いていました。

それはまるで美味しいスープが、
じっくり煮込まれているような音に聴こえました。

その日の私はいつものように、
ぬいぐるみと一緒にベッドの上で過ごしていたのですが、

次第にそこは、
ハイジが住んでいるような素朴な家になり代わり、
暖炉で美味しい野菜スープが煮込まれている空間になりました。

そのような中、小さな私は、
スープがもうすぐ出来上がるのが楽しみだねと、
ふわふわの友達と至福のおしゃべりをしたのでした。

やわらかい光が大きな窓から差し込んでいて、
空気は少しだけ、しっとりとしています。

その音に包まれていると、
ただ、それだけで幸せで、ワクワクして、
なによりも、安心していられました。

やがて大人になった私は、
幾度も ”現実の” スープを調理することになりました。

しかし、今もなお、あの頃に聴いていた

コトコト…コポコポ…

という、あの懐かしい音には敵わない。

改めて思い返してみると、その時、感じていたものは、
音だけではありませんでした。

光や、湿度や、ぬいぐるみの柔らかな肌触り。

そして、
私はただ、私のまま、そこにいた、
という安心の場。

それらのすべてが重なって、
ひとつの “音” のように、
私の中に深く残っているのです。

もしかしたら、
それは「原初の音」なのかもしれません。

あなたにも、記憶に残る “音”はありますか。

この続きは、明日の満ちる夜に。

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