月の裏側 – 第8夜 – 乳房とナメクジ

前回までのあらすじ
主人公は、正木由羅、40歳、既婚、5歳の息子を持つ一人の女。小さな出版会社の総務部で働きながら、生真面目な性格ゆえの葛藤多き日々を過ごしていた。そんなある日、社内で変わり者と有名な執行役員である梶のアシスタントとして異動辞令を受ける。
異動初日、神奈川県箱根町に位置するとある美術館の春画の展示エリアで梶と対面し、その独特な人物像に心を揺さぶられる由羅。

そこから5日後(2023年12月6日)。梶の指示により、ライターの森山成美と由羅がくだんの美術館で初対面する。数ヶ月後に迫る展覧会に関する特集記事を二人で担当するためだった。
会話の流れから、成美が由羅と同級生であること、胸元に広範囲の火傷痕を負っていることを知る。
由羅は火傷痕の原因を記した成美の記事を読み、その快活な印象からは想像できない壮絶な過去に思わず怖気付く。
また成美が梶に頼まれ胸元を見せたようなことを仄めかすため、由羅は更に動揺する。
解散の時間が到来すると、成美は梶と出会ったきっかけのバーに来るようショップカードを由羅に渡した。

source|Lying Naked Woman I by Pablo Picasso 1955 

温かく心地よい感覚がする。

かと思えば、汗ばむほど息苦しく、暑い。

ー ここはどこ…

由羅は閉じている目を開こうとするが、
瞼はまるで糊付けされているかのように、ぴたりとして離れない。

どこにいるのか、わからない。
自分が立っているのか、寝そべっているのかも。

しかし目を瞑っていても、
自分が淡白い光に包まれていることだけはわかる。

そして、たっぷりの酸素が必要だということも。
無音の空間で己の呼吸する音だけが聞こえる。

しばらくしてようやく瞼が開き始めると、
一糸も纏わない己の乳房がぼんやりと視界に入った。

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