ルネの物語 L’histoire de René

父は、テーブルに座っていた。

真っ白で、清潔で、張りのあるテーブルクロス。
シルバーのカトラリーと丸い皿。

一面ガラス張りの空間の外側は、眩いほど優美な庭園だった。

父は、そのフレンチレストランで、ルネと私が来るのを待っていた。

ルネはエメラルドに輝く泉のような、清らかで神秘に満ちた純真な心と、端麗な容姿を兼ね備えている。

私はそんな美しいルネを、父に紹介したかったのだ。

しかし、私は恐れていた。

なぜなら、ルネはーーーー …

 

父は、ルネを、受け入れてくれるだろうか。

なぜなら、ルネはひどく繊細で、ごく小さなストレスでも気分が悪くなり、身体中から汚物を吐き出してしまうのだ。

事実、今、目の前にいるルネは、私の父に会うことが恐ろしくて、身体のほうぼうから”それ”を撒き散らしながら、泣き叫んでいる。

僕は君に相応しくないんだ!と、絶望の縁に立たされたかのように。

私はルネを愛している。
だから、私はルネを慰めていた。

「そんなことない。私には、どうしても、あなたが必要なの。」

母は困惑し、私たちのことを、数歩 後ろのほうから、心配そうに見守っていた。

その現場は、真っ白で、清潔なタイル張りのトイレだった。
しかし、吐き出された汚物によって、ルネも、その周辺も、みるみる茶色の液体で染まっていく。

その3人の様子の ”足元” だけを、父は、フレンチレストランの ”その席” で、黙って、見ていた。

父は彫刻家だった。

ルネが、まるで、はきだめのような気配でいることが、却って父の芸術家としての心を突き動かしたようだ。

まだ見ぬルネの姿を想像し、父は土でルネの像を型取り始める。猛然と。
それは、まさに、忘我の境地だった。

私はそんな父を見て、決して負けたくないという気持ちが沸き立ち、我もと勢いよく、赤茶けた土を手に取り、力強く、捏ね始めた。

ルネの本当の姿、ルネの真の清らかさを知っているのは、他の誰でもない、この「私」なのだ!

ルネは、制作に打ち込む父の気配に気がつくと、ふと泣きわめくことを止めた。

ルネは、これまでの間、鏡で自分の姿を見たことがない。
しかし、年配の男の大きな手が生み出さんとしている作品が、自分の姿であることをすぐに理解した。

その途端、父を慕う気持ちが大きく膨らみ、ルネは絵筆を取った。

そして、まだ見ぬ父の肖像画を、精悍な表情で一心不乱にキャンバスに描き始めた。

私はそんなルネの純朴さに心底感動して、その儚くも美しすぎる心をそっくりそのまま作品として残したいと強く願った。

 

制作に耽る父の背中に向かって、涙を湛えながら、私はそっと聞いた。

 

「ルネの作品が出来上がったら、息子の保育園に飾ってもいい?」

ー あそこは、子供たちの個性を大切にしてくれる場所だから ー

 

作品は、ルネそのものというより、
何かを切に慕う気持ち、或いは、無償の愛そのものなのだ。

父もルネも、ただひたすら、まだ見ぬお互いの姿を、手探りで、懸命に、創り続けていた。

 

 

3次元の世に生きる女性の苦悩は、今に始まったわけでありません。
何万年も遥か昔から壮大な旅を続けてきたのです。
ゆえに、敢えて女性として生まれてきた私たちは、勇敢な魂をその体に宿していることを忘れてはいけません。


『ルネの物語』は、そのことを暗喩した物語であり、

全ての女性が内に秘める男神と女神が相互に敬愛する段に来たことを暗示しています。

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